(そうしてまたあなたは変容する)感想

 変質と変容。

 不可逆な、唐突な、理不尽な。それらはぼくらの人生で避けられないものだ。そして、外的要因によって変質させられたものは、安定を求めて、穏やかに変容する。かつてそうだったものがそうでなくなってしまう。境界が溶けて混ざって、新しい秩序を作り出す。


 十戸さんの文章は繊細で、美麗で、それでいて脆くない。顕微鏡で見た細胞の織りなすパターンのように、そこには機能的必然性と、美しさがある。この(そうしてまたあなたは変容する)を読むことで、ぼくらは十戸さんの注意深く観察する眼差しを、感じることができる。

 感想を書くのが野暮というか、ぼくの力では表現し尽くせないので、一編だけ、紹介しようと思う。させてください。


 夜の底より

 さっと投げかけられた光によって、夜の底のように昏いなにかの一欠片を見てしまう。そして、文章がゆるりと手招きをする。不吉なそれを、見ることができないそれを、見せようとしてくる。

 ぼくらはそれを見ることができない、かつて素晴らしいと思っていたもの、はるか高くにあったはずの、良いと思っていた全てのものが、堕ちて、ぐずぐずに爛れてしまったそれを。

 大切だったはずのものが、大切でなくなってしまった時、人はそれから目を背けてしまう。見たくない。思い出のまま綺麗でいさせてほしい、というある種の残酷さを、突きつけられる。


 られるんだよ。

 とても素晴らしい本です。手に入れられてとても嬉しいです。十戸さんありがとうございました。これからも益々のご活躍を願っております。